決断


約束の9時に間に合うかわからないくらい遅くなってしまった
急な約束だが今後のためによくないと思い耕三は、タクシーをはしらせた
思いのほか早く到着したので、横のベンチでビルの隙間を眺めながらタバコを深く吸い込んだ
こんなビルが立ち並ぶ小さな空からでも星が見えるなんてと思えるのは、
ゆっくりと空など眺めたことの無い耕三には新しい世界のように思えた
こんなばかげた発見をしてしまうなんて、あたりまえのことなのに
息つくまもなく、毎日動き回っていたんだなあと、ほとほとなさけない
まだ打ち合わせには時間がある、明日の極秘プレゼンテーション
なんとなくばかげたことのように思えてきた。
実際どれだけかっこうよく表現しても裏取引には違いない、
建設業界では至極当たり前のことなのだが、一週間後に競争入札
資料を買い取るのが私の仕事なのだ
もうやめよう私がやめても誰かが同じことを繰り返すだけ、
どうでもよいことのように思えてきた
ふらふらと当てもなく歩き始めた、
かみさんとは別居中、帰るところといっても、戸板が外れそうな安アパート
そんな事を思いながら抜け殻の様に歩き続けた、街明かりなどほとんどない
考えてみれば私も犬と同じように思えてきた、かみさんと娘たちの住む家の近くだ
角を曲がれば我が家の門柱が2本いかめしくたっている、乾耕三と書かれた表札も
他人のようにぶら下がっている。
二階の窓に明かりがついている、まだ起きているんだ24才にも成ったのだから
彼氏の一人くらいと思いながら携帯ワンコールしてしまった。
そっとドアを開けそっと近づいてくる二つの足音が感じられる、
小声で「お父さん、お父さん」こっちこっち薄暗い中で手招きしている、
庭のベンチの方からだ、なれた手つきで中にはいると、菜々子と妹の和泉、
「夜更けにうろついていると間違われるよ」
「なんにだよ、こんないい男をみて間違えるはずはないよ」
「いい年してよく言うわ、寝酒の最中だったのに、一本余分に持ってきたからつきあってね」
「おまえいい年して一杯誘ってくれる彼氏はおらんのか」
「残念でした」「このごろ入念にお化粧してるもんね、、、お姉ちゃん」
「ばらしたら殺す!!」「化けて出てやる」「おおこわ」
「ふうーんそうなんだ」とたしなめる
「飲も飲も、うひょーおいしー」
「お父さんも遅くまでお仕事ご苦労様」
「もうやめることにしたよ!!」
「清廉潔白なお父さんには似合わないよね、和泉もそう思うでしょ」
「何がいいんだろう、きっとにあう職業が見つかるよねっ」
大騒ぎするわけでもなし悲しむわけでもなく、物事を客観的にとらえることができる
もう親の手助は必要のないくらい成長したんだ、そう思うと
何か開放感で満たされてくる、心の中が軽くなったような気がしてきた
「よし決めた」いきなり立ち上がると軽くなった缶ビールを
奈々子に渡し「ごちそうさん」
「お早いお帰りで、暇そうだから明日遊んでね、ぼろアパートに行くから」
「ぼろアパートとはご挨拶、高級マンションでもないし、まあいいっか、お休み」

 

安眠妨害

 
セルフ給油所の監視員、この職業に就いてから半年がたつ、ただただ寝ることだけが
仕事のような職業である。
夜9時から翌日の7時、飲んで毎日のように帰宅していたのが懐かしくも感じる。
今日は休みだが、少しは寝ないと、、そんなことを考えながら、とろとろとうたた寝
なんと気持ちのよい瞬間なんだろう、ドアがけたたましい音でなり始めた
あわてて飛び起き出てみると、「お父さん早く開けてよ」
「和泉、おまえ女の子なんだからもう少し静かにこれないのか」
「だってトントンくらいでは起きないでしょ」「そんなことはない、、、」
「相変わらず、きったない部屋だこと」
「木賃宿でわるござんしたね」
「その紙袋はプレゼントか?」
「そうよお掃除のね!!」
「昼飯はやすい定食だからな」
「けち、もっとおめかししてくればレストランだったかも」
「勝手なこと言っとれ」
このーと思いながらも目を細めて喜ばしく思うのは、としょりになったのかも
「たばこでも買ってくるわ」外に出るとまぶしい、春も終わりを告げ初夏の日差しが
感じられる
コウモリ男と言っても過言ではない様な毎日だからしょうがない。
30分位はたっただろうか、ドアを開けてみるときれいになっているではないか
やっぱり女の子だねー「たばこやさんて遠いのね」「まあな」
一段落付いたら出よう
「徒歩じゃやだよ」
「車は出しますよ!!」しばらく走るとファミレスが見えてきたので、「今日はここだね」
「コンビニ弁当よりましだしいいよ」隣からうれしくもなさそうな返事が返ってきた
適当に頼んだ後ふと斜め向かいの席をみると昨夜給油所に来た女性客
年の割に派手派手しい格好をしていたし
トランクの端からシャツの様なものが出ているようだった
かなり急いでいるようすで、3時過ぎなのにそんなに急がなくてもと思ったくらいである。
一応トランクから布きれがはみ出てますよと告げると、びっくりしたような顔で
給油もそぞろに
走り出してしまった、キャップを忘れたので小走りに運転席の方に近寄ったが
気づかないままだったのでよく覚えている
誰かとしゃべっているようで一人ではない顔を近寄せては小声でしゃべっている。
私がじっとみていると、「お母さんにますます嫌われるよ」「そんなんじゃないよ!!」
「和泉はお父さんを信じてないな」「そうでもないけど」
別居の原因を作ったのは私なんだが、決して女性と何かあったというわけではない
以前勤めていた会社で小さな建設会社だが工事を丸投げするはずだった。
工事用機材その他諸々の手形不渡り倒産、社長蒸発、残された家族に申し訳なく思い
会社の整理から、家族のことまで一ヶ月半ほど通っていたが、家にも帰らず
ふつうにみれば疑われてもしょうがない、ぎくしゃくしているうちにこうなってしまった。
妻は妻でブティックめいたお店で菜々子と一緒にハウスマヌカン
すれ違いの毎日、大学生の和泉は私と家族の連絡係のようなものだ
家族の形態なんてこんなもんだと思えば気が楽である。
それぞれが、それぞれに生きているのだから

週休二日


昨日に続き今日も休み、夜ばかりの生活がいたについて、
昼間の過ごし方が不得手に成りいったい何をすればよいのか
ただぼんやりと天井の節穴を数えてみたりもする
ふとテレビからニュースキャスターが叫んでいる、「死体遺棄現場からの中継です」
こんな田舎で殺人事件か、物騒な世の中になったもんだ
給油所にも変な客が来るから、2日ほど前の11時頃あまり綺麗とは思えない
白のワゴン車から6人ばかり降りてきたと思ったら、うち一番若そうなのが
トイレに駆け込んだ、ワゴン車も長いこと給油ステーションに泊まったまま
場内を散策するかのように5人がうろついている
給油がすんだらさっさと帰るもんだが帰る様子もない、いきなりトイレのドアを
たたく音がし始めた、よく事の次第が飲み込めていないの耕三にとって
騒がしいとしか思うなかったんだが、監視室のブザーが鳴り始めた
何のことかと外を見ると16番のボタン監視室の前につけられた呼び出しからだ
少しドアを開け、「どうしました」・・「連れが出てこんのだ、おじさん何とかしてくれ」
しょうがないのでドアをノックすると「うるさいなー」と中からろれつの回らない声
周辺のにおいときたらかなり臭いみなさん飲んでますね!!「いらんこと」
「早く何とかしてくれ」「何とかといっても何ともならん」
用が済んだら出てくださいね!!と一声かけてさっさと監視室に戻った
外では酔っぱらいたちが、窓ガラス越しにパフォーマンスをしている
ガラスに顔をへばりつかせて中をのぞき込んで舌を出してべーをしている。
「暇な奴らだ」かなりの時間が過ぎただろうか時計を見ると1時になっている
ドン、ばたんと音がして走って出てきたと思ったら周辺を5人が取り巻いた
押しのけるようにふらふらと歩き始めた一人は車のエンジンをかけ後を追っていった
アーアやっと静かになった巡回の時間なので、一回りしてトイレをのぞくと
異臭がする「はきそう」見る気もしないがのぞき込むと、おう吐した残骸が散らばって
汚いは、臭いはちゃんと便器の中に吐けばまだしもそこら中に吐きまくってある
ホースで勢いよく下水に流すことにした20分くらいかけつずけやっと流し終え、
ふと便器の奥に目をやると何か落ちている常備品でもないし取り上げてみると財布だ
長い時間をかけて、ズボンの後ろでプレスされ、皿のように反っている
免許証は入ってないし、特定できるものはないなひょっとすると未成年かな
忘れ物に札をつけ山になっている遺失物箱に放り込んだ
そんなことを考えながら、また天井の節穴を数えているうちにいつとなく耕三は睡魔に
誘われ気が付いたときには昼過ぎ、こんなんじゃ夜寝れんでいかんいかん
喫茶店でもいこ、4分ほど離れたところに行きつけの店がある
内装も少し綺麗にしたらと言ってもいっこうにその気がないのか黒ずんだ壁が
むき出しになりカーテンは今にも破れてしまいそうだし最初は白く薄いレース地だと
何とか判断できる、カウンターときたらすり減ってしまい強く押さえると
抜けそうなんだが、何となく居心地がいいのか、モーニングコーヒーはここなんである。
店の奥からしゃがれた声で「やあ、耕さん遅いじゃないか」
「何時だろうが俺のかってだろ」「今日は休みなんだから朝きちんと顔を見ないと
なんか朝がこない様な気がしてね」、「好きなこと言ってりゃあ」
「ちゃんと働かなくちゃ、早くいつものやつを入れてくれ。」「もう出来てるよ」
「じゃ早くしてくれよ」「休みなんだから別に急がなくても」
たわいもないやりとりに一日が始まる。
一元の客など来そうもない、なじみ客のたまり場だから、来るはずがない
がらんとした店内の隅に耕三はぽつんと会話のない世界に閉じこもっている
店内に流れるBGMを聞くとなく聞いている。
ドアには牛の首にぶら下がっている大きなベルが落ちないように金具にしがみついている
そんなぼんやりとした時間がとても好きだ、以前の職業が懐かしく思える。
休みなど殆どあるようでない毎日だったし、考えてみれば一番ほしかったものを
手に入れたのだが今ひとつ使い方になれていない
「まあいっか、そのうち上手になるさ」



休み明け


夜一番つらいのは休み明けなのである。
その日一日は寝てないので24時間連続で起きている計算になる、とにかく眠い
今日は夜8時出勤なので通常より1時間早出だどのみち通常出勤だろうが寝ていないのに
何ら変わりはない、眠くなりゃ外で散水でもしてりゃ一晩くれるしと思いながら
監視モニターを見ると以前見たことのある車が監視室の横に止まった、若い男と言うより
高校生くらいの若僧と母親らしき二人がこちらに歩いてくる。
ドアをノックしてきた、何の用だろう、「どうしました」
以前この子が酔ってご迷惑をおかけしました、トイレに長いこと入っておりまして
本人はさして悪びれた様子もなく「おじさん俺の財布知らない、」
口の利き方に母親は制すように「財布は落ちてなかったでしょうか」
「ああそうかあなたでしたか」「ええ預かっておりますよ」
こんもり高く積まれて山の中から先日の財布を取り出すと
「これですか」「これこれ」手を伸ばしてとろうとするので耕三は思わず手を引いた
「俺の財布だ、返してくれよ」
「確認だけさせてもらいます、財布の中に何が入っているか答えてください」
「俺の財布なんだからいいだろ」「そう簡単に言わないでください」
「申し訳ありません、この財布持ち主の確認をしなければなりません」「いちいちうるさい親父だなあ」
「秀ちゃん!!、ちゃんと答えなさい」と母親がしかるようにそくす、「6000円くらいと」
「えーっと来来軒、中華料理屋の領収書、もいいだろよく覚えてないし、おじさん勘弁してくれよー」
「間違いなさそうですね」「では受取書に住所と名前をお願いします。」と
顔を上げると以前どこかで見たような女性、以前見たときは結構派手な
スタイルだったが、今日は十分母親をしているワイシャツらしき布を
挟んでそそくさと走り出した女性に間違えない、女は化けるもんだねー
そんなことを考えるうちに、「これでいい、空白が埋まっていればいいですよ
と言っても二カ所しかない、住所と名前だけだ
あっ、そうだ奥さん以前この給油所でキャップ忘れませんでした。
まだ有ると思いますけど、
「そんなこと有りません」穏やかな母親の顔が急にこわばって
別人にでもなったように「違いますわ」「勘違いかもしれませんご苦労様でした」、
勘違いと言うやいなや子供の腕をひったくるように
帰っていった「間違いないんだけどなー」と耕三は独り言のとうにつぶやいた。



うなぎの思い出

週に一度必ずやって来る、2トンのロングに乗った、62才の大森老人が給油に来る。
毎回同じ9番レーン、同じ時間午前4時頃やってくる、この時間は一日のうちでも
睡魔と闘う戦士には都合の悪い時間なので事業所内を見回りに出る絶好の時間でもある
耕三は大あくびをしながら外に出ると、申し合わせたようにトラックが滑り込んできた
「いつもの時間、看板には大森商店大きな字が書かれている、もう少し控えめな文字にすればと
言ったこともあるくらいでかい本人いわく「こういうものは目立たないといけない、どうせ書くなら
大きかろうが小さかろうが書いてあることに変わりはないから」
そういわれてみればそうだなと思った、それなりに考え方もあるもんだと感心してしまった。
この老人は値段の少し安いカード式がお気に入り(安いだけがとりえ、機械も安い)
給油方法を細かく説明するのだが、一向に覚える気がないんじゃないかと思うくらい、
ポケットからカードをつまみ出してはカード挿入不良だし、焼いたスルメのようになっているのに
平然と使用している何度使用不能になったことか、そのたびに記載金額を返金するのである
そんなこんなで2ヶ月、よく話すうちに不思議な共鳴感が生まれ週に一度ご老人が来ないと
何か調子が出ないくらいになって来ている。
今では世間話に来ているのか給油に来ているのかわからなくなるほど喋りこんで
引き取り時間に遅れそうになった時もしばしば
短いクラクションがポンと成るガラス越しに人なつっこい顔が微笑んでいる。
ちょい鳴らしでも、周辺住民から苦情だ出ると金切り声の上司がうるさいので、やめてくれと
言っているのだが、一向に効き目がない
こちらも軽い会釈、ドアの閉まる音と同時に「おはよう」
耕三は「いらっしゃい」朝早くがんばるねえと声をかける、荷台から大きな段ボール箱降ろした、
上からビニール袋がのぞいている
「ここで給油して、飼料を引き取りに行き、何軒かの養鰻場に配達する」
「うなぎの、飼料を販売している、これが大森商店の仕事なのである」
「耕さんの顔を見に来るようなものだから」
週に一度だが半年もたつと友人に成ったよう雰囲気だ
中を覗き込むように顔の前に突き出した、背中の青っぽいようなやつがうじゃうじゃいるではないか、
「耕さんうまそうだろう」、
「いったい何匹持ってきたんだ」
「知らん、適当にもってっていいというから適当さ」
「こんなに食えねえよ、」
馬鹿ゆうな娘と別居中のかみさんの分もあるんだよ、ということはこれもって家族に会いに行けと、、、
「決まってるだろうが」しかりつけるような口調に耕三ははっと思った
親父がなくなってからもう何年もたっている、心の奥底のどこかにしまったままで思い出したことすらない
懐かしさと、忘れていたことえの申し訳なさ、父親への恐れ、大森老人と重なり合ってか
身動きすることもなく見送った。
大森老人は、気づいていたのだろう声もかけずに走り去った
朝,
和泉に電話だけすると、布団にもぐりこんだ、以前父親と一緒に良く食べたうなぎ、
ばたばたと騒がしいうちわの音と煙
煙も商品のうちだからな、なんともいえない香ばしい香り、どうだ耕三うまいだろう
子供心に良く覚えている、気のいいうなぎ職人、まだ若かったが今じゃあいい親父になっている
枕元で、例のものはどこにあるのとささやく声が聞こえてきた、夢かと思い目を開くと
「ドアをノックする音に気づかないほど良く寝ていたらしい「何時だ、和泉か」
「和泉かはないんじゃないのお、和泉かはア!! 電話で呼びつけておいてもう4時過ぎよ」
「呼びつけたなんて人聞きが悪い、ただ食い意地が張っているだけじゃないかあ」
「まあ失礼な、こんな美しいレディを前にご挨拶だこと」
「お母さんに嫌われるはずだわ!!」
「てきびしいね、目が覚めてきた」
「寝てなんかいられないわよ、おいしいものが手に入ったって、それはなあに」
わざわざ呼びつけたんだから、よほどおいしいものなんでしょうね!!
「母さんたちも午後の6時に店を閉めてお父さんの連絡を待っているんだから、
いったい何なのおいしいものって」
死んではいないと思うが覗き込んでくれ
台所のダンボールの中だ、どかどかと走って行ったかと思ったら「ぎゃー」鰻だ
そうだ!!鰻だあまりの数の多さに和泉も仰天、「どうしたのこれ」
「もらったんだよ」!!「へーお父さんにこんなもんをくれるきとくな人がいるんだ」
そんな娘との会話もそぞろに
やまへい さんは元気にしているんだろうか、社会人になり結婚しもう親父と15年ほど前に
家族とはちょくちょく、とにかく行ってみよう、和泉に 「母さんたちと6時30分に 山平」
「わかったわ、鰻といったらあそこだもんね、また寝るんじゃないでしょうね」
「寝ないよ」
「コーヒーでもおごってよ、携帯しとくから」「いいよ」
「こんばんわ乾です」
厨房の中からしゃがれた声で、「久しぶりですねー、乾さん お父さんにますます似てきたねえ」
「そうですか今日は変なお願いですみません、いただいた鰻をうな丼にしてほしいのですが」
段ボール箱に入れた鰻を差し出すと、山平さんはそそくさとビニール袋を開いた
「ほー、上物ですよ青背といってね、なかなかのものです」
もう二階に奥さんも来てるよ、じゃお願いします。
そそくさと二階にあがったものの、妻と会うのも久しぶりだしなんか照れくささもあり
ちゅうちょしていると、菜々子が手招きしている小声で「こっちよ こっち」
「や遅くなってすまんすまん」いつものお父さんに戻ったみたい
妻が取り繕うように、時々はつれてきてほしいよね、娘たちもそうだそうだ
何をご馳走してくれるのか考える必要がないくらい、ご馳走してくれるときは鰻と決まっている。
「そう言えばそうだな、ほかに、いろんな料理があるけど鰻なんだ」
別居しているなんてうそのような気がしてきた、和やかな家族の会話に懐かしさと
心の空洞が埋められていくような気がする、
「お待たせ」先ほどの鰻がうな丼になってきた、
「乾さん申し訳なかったがちょっとつまみ食いをさせてもらった、これはうまいこれ仕入れられるなら
教えてくれないか」
「私もいただいたものなので、よくいわからないんです」
「しょうがないな、さ 
さめないうちに
威厳のあるどんぶりのふたを持ち上げると鰻、来てよかった父親と、大森老人が重なり合い
遙か彼方の思い出がよみがえってくる「お父さんおいしいよ」と小さな耕三がいうと
「そうだろう山さんの鰻はほかじゃ食べられんぞ」
お父さんと出歩くときは必ずと言っていいほど、この鰻屋に立ち寄ったのだ
少し酒も入ってか上機嫌の父親に手を引かれて
この鰻の香り、これ自体、遠い親父の思いで
「あなた!!早く食べないとさめますよ、お父さんの食べちゃおか!!」
3つの手を振り払うと、むさぼるように食べ始めた、遙かなる思い出も一緒に。


金切り声の巡回日

家族と一緒に鰻を食べてから妻の要望もあり、もとのさやに収まったというか、同居することとなった
同居するなんていうのはおかしいなと耕三は思っている、ふりだしに戻ったと言った方が似つかわしい
妻は7時に菜々子と出勤、和泉と朝食、娘は大学、耕三はぽつんと一人いるだけ
収入は妻が勝手に稼いでくるのだから、生活費を要求されるわけでもなし
私のお給金なんて、微々たるものだから妻が知ったらきっと笑うに違いないまっどうでもいいことだが
夕方起きて、夕食、出勤なんと変哲もない職業家族と反対生活当面ほかにすることもないし相変わらず
今日は忘れ物の整理でもするか、そういえば先日の財布どんな名前だっけそう思うとちょっと知りたくなり、調べていると、ドアをたたく音がする、モニターには金切り声が移っている
「またうるさいのが来た」鍵を開けるやいなや早くしなさいと言わんばかりに、ドアが開いた
「平穏無事ですか!!」
「忘れ物のちぃえっくですね」
「幾日もたたないのに結構たまるものです」
圧倒的に多いのがタンクキャップ、現金自動販売機の現金、カード式販売機のカード、キャッシュカード、
忘れ物ではないが、オーソリエラー(キャッシュカード使用限度額オーバー)引き落としができないので
現金決済をお願いするのだが、使用できるかできないくらい判断してほしいものである。
記録表に先日の親子が載っているはずだ、えーっと
「何を調べているんですか個人情報ですから、口外しないように、あなたが熱心なときは必ずと言っていいほど何かあるときですからね、先だってもキャッシュカードを持ち主とはいえ返してしまって
カード会社から引き取りに来ましたでしょ、いけませんよよけいなことをしては」
「あれは、本人がカード会社に連絡するからということで、了承したので、免許証を提示してもらい
返却したのだが、本人カード会社への連絡をしてなかっただけですよ!!」
また金切り声か、、、、、と耳をふさぎながら小声で「親切ですよ、お客のかってなんだなー」
「何か言いましたか」
「いーえ」
「必要なことははっきり言ってくださいよ」
火曜日と金曜日はこんな会話が繰り広げられる、先日も同じような内容でまくし立ててご帰還
「ご苦労様です」「がんばって下さい、べろり、静かになりました」
少しは内容の進歩というものがありそうなんだが、いっこうに変わりばえしない
時折外人さんが訳のわからない言葉で、わかりません??わかりませんの連発
まっそれをのぞけば非常に快適な職場である。
口の中でさも相手がいるようにしゃべりながら、仕事をするのは常になっているので
端から見れば異様な光景である、監視カメラでみているやつはきっとそう思うに違いない
耕三は監視カメラをいっこうに気にもせず、相変わらず独り言をつぶやきながら
朝になるのを待っている。
えーと、さっきの調べものっと「ありましたありました」
新藤栄吉さんね、住所も近くこりゃ隣町の別荘みたいな豪邸が並んでいるあたりだ、、へー
結構いい車だったから、貧乏はしてないよなー


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